『アトキンソン氏の中小企業再編論は有効か 』
以下のIT経営パートナーズ協会のメルマガに投稿させていただきました。転送配信させていただきます。すでに入手された方には、重複となりますが、ご容赦願います。
アトキンソン批判は、出尽くし感があり、もはや聞く耳を持つ人は数少ないと思われますが、さて、政権はどう動くか、動かないか、注目したいと思います。気になるのは、今の政権で議論されることはいいとしても、実効性に乏しいこと、政権期間に何をどこまでできるか、ですね。
https://www.asahi.com/articles/ASNCM76F9NCMUTFK00Q.html
https://business.nikkei.com/atcl/forum/19/00024/081900008/
https://www.nikkeibpm.co.jp/item/nb/661/saishin.html?gclid=Cj0KCQiAifz-BRDjARIsAEElyGLII2hVC9fbdxwqrWv4Au3iWwx3TLA2OZEtofRuHnlCVPRtXjxtJlMaAgzLEALw_wcB
こちらも、ぜひご高覧ください。
https://contendo.jp/store/contendo/Product/Detail/Code/J0010365BK0103903001/
テレワーク版シンポジウム「日本に中小企業は必要だ!」
一般社団法人 ICT経営パートナーズ協会 メルマガ (第84号)
http://www.ictm-p.jp/
2020/12/16
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【目 次】
1.巻頭コラム 『アトキンソン氏の中小企業再編論は有効か 』
社)クラウドサービス推進機構 理事長:松島 桂樹
2.ニュース・お知らせ
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巻頭コラム 『アトキンソン氏の中小企業再編論は有効か 』
社)クラウドサービス推進機構 理事長:松島 桂樹
12月1日に開催された政府の「成長戦略会議」において、菅政権の成長戦略の実行計
画が公表された。中小企業政策として、「合併等により中小企業の規模を拡大し、生
産性を引き上げていくことは重要である。」として、再編を促している。
しかし、この会議の民間議員である小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン
氏の中小企業再編論は様々な議論を呼んでいる。人口減少が続けばGDPの低下は避けら
れないので、生産性向上、とりわけ中小企業の労働生産性向上を図らなければならな
い。事業を継続する意欲を持たない、いわゆるゾンビ的企業を資金支援することが延
命を手助けし、生産性低下の大きな要因となっている。早く退出させるべきだ、と述
べる。
もちろん、申請企業を、厳格に調査し審査するためには多くの工数と期間が必要であ
り、迅速性を重視すれば悪意の企業が混入することは避けられない。もはや会社から
の情報に頼るのではなく、財務状況、取引データなどを常に収集し、AIを駆使して分
析する、ガンの部位を正確に探し当て、抗がん剤を投与するように、本当に支援が必
要な企業に資金投与する。まさにシステム開発におけるアジャイル手法を応用して、
小さく実施し、その結果を見て短かいサイクルで改善を図るように 、少額から迅速に
助成し、成果に応じて追加の補助をすることで、集中的、効果的な援助が容易になる。
これこそデジタル化による解決である。
アトキンソン氏は、規模が小さいために、人材や財源が不足し、IT投資も遅れ、さら
に低賃金となっているので、統合による規模拡大を図り、最低賃金のアップする、そ
れができない企業には退出を促し、その労働力を中規模企業に振り向けることで、労
働流動性につながると述べる。しかし、この処方箋に、ほとんどの中小企業関係者は
同意しない。
第1に、中小企業の中には、小規模であっても高い利益率を確保している企業は少な
くない。むしろ経営モデルが問題なのである。99.7%の企業が中小企業、75%の勤労
者が中小企業に勤務している現状を見れば、中小企業だけの問題ではなく、日本の産
業構造の課題である。大企業の生産性には、中小企業の不断の努力と犠牲が含まれて
おり、手形など世界にもまれな60日、さらに120日という長期的な支払いを許容する
商慣習が大企業の収益性を高め、中小企業の財務基盤を弱体化させている。電子イン
ボイスによる即日支払いこそ、中小企業の生産性向上への重要な一歩である。
第2に、近年のクラウドサービスではIT環境の整備はもはや先行投資ではなく、月数
千円、さらに無料のサービスからも試行できる。身の丈にあったIT化が現実化してい
る現在、その大きな阻害要因は、リベートなどの発注企業の不合理な商習慣、複雑な
税制、規制などであって、IT投資余力の有無ではない。
第3に最低賃金を上げることで、社員の意欲を高め企業業績向上が期待できるという。
しかし、それは少なくとも半年から数年先であり不確実である。短期的には資金は確
実に流出し、人件費増加による経営圧迫は避けられない。それらを同列に論じること
は合理的ではない。
第4に最大の処方箋として企業統合を推奨する。確かに事業承継が困難な中小企業が
他の企業の支援を受けることで、雇用や技術を維持できるかもしれない。しかし規模
が異なる企業の統合は、異なる企業文化、異なる社内システムの統合に伴うコストや
あつれきが極めて大きい。中小企業への十分なデユーデリジェンス(企業査定)は行
われず、事前準備、社内了解も不十分であろう。統合の意義は、1+1が2を上回る
ことにあるが、それが達成できなければ、資源を切り捨てることも避けられない。統
合後の経営モデルを描くための伴走的な支援こそ不可欠である。
第5に、中小企業の再編を促し、出来ない企業の退出を促すという考えは、利益をあ
げる優れた企業だけ残せばよい、とも聞こえる。とりわけ、ほとんどが中小企業とい
う地方自治体にあっては、雇用の受け皿であるばかりか、地域社会の重要な担い手で
もある。郊外への大手小売業の進出によって、シャッター街になった駅前商店街の治
安が悪化したように、この考え方は地方都市を確実に疲弊させてしまう。切り捨てで
はなく、中小企業への粘り強い支援こそ私たちがとるべき施策である。
むろん、彼は疑いなく優れた経営者である。しかし名選手、必ずしも名コーチ、名監
督でないように、名経営者の手法がどの企業にも当てはまるわけではない。中小企業
の支援機関、支援者の協力なしに、彼の処方箋は一歩たりとも進まない。
新型コロナは、中小企業にとっては大きな災禍であるが、経営を変える機会でもある。
当然ながら、私たちがすべきことは、一社でも成長路線に乗せるべく、何より中小企
業自身が気付き、企業同士が相互に学び合い、経営者の意思決定、変革の行動へ背中
を押す、まさに菅総理が語る「自助」「共助」、そして「公助」、の場作りではない
だろうか。