中小企業の価格転嫁とデジタル化について

 昨年、12月23日に開催された「岐阜県地方版政労使会議」にて、CSPA特別研究員 松島桂樹が中小企業の価格転嫁とデジタル化について発言しました。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/gifu/20241223/3080014840.html

以下はその要約(企業名は省略)です。

1.価格転嫁とDX

中小企業のDX支援の一環として開発されたデジタルインボイスのサービスが開始されました。

デジタルインボイスは、従来の紙の請求書に代わり、電子データで一連の業務を処理することで、人手による作業の減少、入力ミス防止、郵便料金の削減など、大幅な時間とコストの削減を実現します。受注者と発注者双方に大きなメリットがあります。特に請求書を受領する企業は、岐阜県の基盤を活用することで、ウイルス対策がなされ、安心・安全に請求書を受け取れ、双方の帳簿保管に役立ちます。
インボイスをデジタル化することによって、取引データが体系的に整備されます。価格転嫁の基本は、原価や会計データの整備にあります。

2.価格転嫁とは

関市のN社の社長は、価格転嫁について日本経済新聞のインタビューに答え、「単なる価格値上げのお願いではいけない。賃上げを実現するには、まず協力工場からの価格転嫁を受け入れ、1社あたりの売上依存率を1%未満に抑えるなど、企業体質を根本的に改善し、『価格転嫁しやすい収益構造を築く』経営改革が価格転嫁に必要だ」と述べています。
価格転嫁の推進に向け、私たちは、デジタル技術を活用した方策を3つ提案してきました。

3.データに基づく交渉力の向上

第一に、正確な原価データに基づいて交渉し、適正利益を確保することです。

現在、大垣市の社員12人の排水処理装置メーカー、T工業所では、デジタル化により製品の原価が正確に把握できるようになり、従来、経験や勘で行っていた見積作業の改革を行い、データに基づいて、案件ごとに適正な利益を確保し、価格転嫁できる見積金額の提示を目指しています。

各務原市の機械メーカー、H製作所では、IoTによる地道なデータ収集により製品ごとの原価を詳細に把握し、全社、部門横断で改善を行ってきましたが、それに加えて、顧客別の収益データをもとに、特に儲けの出ない取引先には、取引を断ることも辞さず、価格引き上げを強力に交渉しています。

4.新商品開発と新規販路開拓

第二に、自社で価格を決めることのできる新商品や新市場の開拓です。

美濃加茂市の社員15人のE社は、屋根工事の技術を生かし、太陽光発電システムや防災対策の大屋根建築、道の駅の屋根にソーラーパネルを取り付けるなど、環境問題に特化したビジネスを展開しています。経済産業省の「DX認定」の取得、「ぎふSDGs推進パートナー制度」のゴールドパートナーに登録し、岐阜県のSDGsにも貢献しています。

また、刃物で有名な関市の若手経営者たちは、クラウドファンディングを活用して新規市場開拓に取り組んでいます。S社は刃物技術を生かしたオリジナルの食パンナイフ、野菜ピューラーなどのキッチンツール、Z社は多機能キーホルダー型カッター、K刃物は人気アニメとコラボした日本刀型ペーパーナイフなど、関ブランドの革新を目指し、顧客の視点から自社技術に新たな付加価値を創造しています。

5.伝統産業のDX

第三に、岐阜の伝統産業の技能や技術を生かし、世界で唯一無二のスーパーニッチな製品を作り上げることです。

岐阜県の伝統産業にもDXの波が押し寄せています。東濃のK陶器はロボット工程、飛騨高山のH産業やN木工は高付加価値の木工製品製造とマーケティングのデジタル化に取り組んでいます。130年の歴史を持つ羽島のH紡績は、70年前の古い機械を活かしながらIoT化を進め、ロケットに組み込まれる部品など、高度な品質の繊維を製造し、「素材と技術で世界を変える」と知識製造業への転換を目指しています。

いずれの企業も、若い経営者が伝統とデジタル技術を融合し、存続の危機を乗り越えようとしています。

これらの取り組みに共通しているのは、価格転嫁できない事業領域を縮小し、価格転嫁できる事業領域に特化しようとしていることです。

6.まとめ

岐阜県第4次産業革命から8年間、産業のデジタル化をお手伝いさせていただきました。その間、数多くのアトツギの若手経営者がDXに取り組み、大きく成長しており、岐阜県産業の将来を心強く感じています。