【開催報告書】デジタル×知財で中堅・中小企業の「稼ぐ力」を応援する『ニューイヤー・カンファレンス2026』

人口減少や人手不足が進むなか、中堅・中小企業が持続的に成長していくためには、「デジタル」と「知的財産」をいかに経営に結び付けていくかが重要なテーマとなっている。

CSPA(クラウドサービス推進機構)主催の「ニューイヤー・カンファレンス2026」では、知財、デジタル、サイバーセキュリティという3つの切り口から、中小企業の“稼ぐ力”を高めるための具体的な視点と実践のヒントが示された。

【第1部】
知的財産を経営に活かす――中小企業の「稼ぐ力」を高める知財戦略

師田晃彦氏(特許庁審査業務部長 中小企業知財戦略支援総合調整官)
松島桂樹氏((公財)ソフトピアジャパン理事長、CSPA理事・特別研究員)

知財は守りだけでなく「攻め」の経営資源

本対談では、特許庁の師田氏と松島氏が、中小企業にとっての知的財産(知財)の重要性、活用の実態、そして今後の経営における知財の位置づけについて多角的に議論した。

冒頭では、キッコーマンの「柔らか密封ボトル」を例に、特許・意匠・商標を組み合わせた多層的な知財戦略が模倣防止とブランド構築に大きく寄与したことが紹介された。特許は故意・過失を問わず侵害を差し止められる強力な権利であり、逆に他社権利を知らずに侵害するリスクも高い。にもかかわらず、中小企業の特許保有率は17%と低く、知財調査を行っていない企業も多い。知財の未活用は潜在的な損失につながる可能性がある。

特許情報は公開されるため、技術動向や市場ニーズの把握にも役立つ。特許を「技術力の証明」として営業に活かす企業もあり、知財は守りだけでなく攻めの経営資源にもなる。中小企業が持つ独自技術を「お宝」として認識し、市場のニーズと結びつける想像力が重要だと指摘された。単に出願件数を追うのではなく、「良い特許を活かす」視点が求められる。

無形資産としての知財と企業価値

国際標準に関わる標準必須特許(SEP)の重要性にも触れられ、欧米企業が莫大な利益を得てきた構造を踏まえ、日本企業も戦略的に取り組む必要性が示された。

後半では、知財を含む無形資産を経営資源として捉える「知財経営」が議論された。欧米企業では企業価値の大半が無形資産だが、日本企業は依然として有形資産に依存している。知財を活用することで、企業の強みの可視化、人材育成、交渉力向上、企業価値の向上につながる。さらに、令和8年施行予定の「企業価値担保権」により、知財を担保に融資を受けられる制度が整いつつあり、中小企業の資金調達の新たな選択肢となる。

デザイン経営と知財が描く企業の未来

また、特許庁が推進する「デザイン経営」も重要なテーマとして紹介された。デザインとは「ありたい未来」を描き、価値観を一貫して表現する経営手法であり、無印良品のブランド構築やアキレス「瞬足」のイノベーションが好例として挙げられた。中小企業こそ、自社の価値観や強みを言語化し、ブランドやイノベーションに結びつけることが重要だとされた。

最後に、サプライチェーンにおける利益配分の問題が取り上げられた。下請企業が自社の知財を正当に評価されず、大企業に技術提供を強要されるケースが存在する。知財取引ガイドラインや下請Gメンの活用を促し、知財を正当に主張することが賃上げや企業価値向上につながると結ばれた。知財は単なる法務の話ではなく、企業の未来を形づくる経営そのものだというメッセージが強調された。

【第2部】
デジタルで実現する価値創造経営――人口減少時代のDX戦略

村上敬亮氏(元デジタル庁統括官、東京大学公共政策大学院特任教授、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授)
岡田浩一氏(明治大学教授、CSPA副理事長)

生産性停滞の構造とデジタル活用の必然性

村上氏は、日本の生産性が2000年前後を境に伸び止まった理由を示し、人口減少時代におけるデジタル活用の必然性を強調した。生産性停滞の主因は、製造業の雇用吸収力が限界に達し、余剰労働力が非正規雇用として地方のサービス業に流れ込んだことにある。

飲食・宿泊・医療などのサービス業は構造的に生産性が低く、ここが改善されない限り日本全体の給与水準も上がらない。また、規制緩和によって増えた非正規雇用は低生産性の職種に偏り、全体の生産性を押し下げた。地方創生や日本経済の再成長には、サービス業の生産性向上が不可欠であり、その鍵がデジタル化であると述べた。

中小企業DXの現実的な進め方

中小企業がデジタルに取り組む際の「順番」も示された。まずはホームページの整備である。多くの中小企業は情報が古いまま放置されており、これでは市場から見えない存在になってしまう。

30万円程度の投資でも問い合わせが増え、社長がデジタルの効果を実感するきっかけになる。次に、現場用のグループウェアを導入し、工程ごとの進捗を簡単に共有できるようにする。これにより、社長が現場に張り付く必要がなくなり、営業や経営判断に時間を割けるようになる。

本格的なDXは「生産管理」と「受発注のオンライン化」である。

中小企業の多くは設備総合効率(接送率)を把握しておらず、実際には50%以下の稼働率しかないケースも多い。生産管理システムを導入すれば原価が正確に把握でき、社長の勘ではなく数字に基づいた見積もりが可能になる。また、受発注のオンライン化を恐れる声もあるが、機械的に再現できる技術は隠してもいずれ模倣される。むしろオンライン化によって稼働率を高め、企業として残る理由を「技能(コツや工夫)」に置くべきだと述べた。

組織と地域をつなぐDXの本質

DXの本質は「組織の枠組みを超える連携」にある。ゴルフ場の例では、個別にシステムを作るのではなく、マイナンバーカードと予約サイトを連携させることでチェックインを効率化し、マーケティングにも活用できる仕組みを提案した。

また、地域の商店街とポイント連携を行えば、地域経済にも貢献できる。こうした共通基盤の導入こそがDXであり、技術の問題ではなく経営判断の問題だと指摘した。人口減少時代には、供給側が需要側に合わせる発想が必要であり、タクシー会社なども個別導入ではなく地域全体でデジタル化を進めるべきだと述べた。

「飲み会は異業種で行うべきだ」

最後に、経営者の想像力と異業種交流の重要性が語られた。地方の経営者は「維持」を望む傾向が強いが、社会が変化する中で維持するには相対的な成長が不可欠である。想像力が湧かないのは、自分の業界だけを見ているからであり、異業種との交流が新しい視点をもたらす。

人口減少で需要が薄くなる中、自社の技術をより高く評価してくれる顧客を効率的に見つけることが重要であり、そのためには情報発信とオンライン化が欠かせない。新しい世界に飛び込み、面白さを感じながら変化に挑むことが、これからの経営者に求められる姿勢だと締めくくられた。

【第3部】
DX時代に不可欠な「侵入前提」のサイバーセキュリティ

AI時代に急増するサイバー攻撃の実態

ペンタセキュリティのジーン・ジョンヒ氏は、DXが進む現代において避けて通れない「サイバーセキュリティ」の重要性を強調した。特に、AI活用が広がる一方で、AIを悪用した攻撃も急速に高度化しており、「侵入前提の時代」に入ったという認識が不可欠だと述べた。

同社は1997年に韓国の大学院生6名によるスタートアップとして誕生し、現在は世界171カ国にサービスを提供するセキュリティ企業へと成長。ウェブ・データ・認証のサーバー側セキュリティを中心に、コネクテッドカー、スマートファクトリー、ブロックチェーンなどの先端領域にも取り組んでいる。日本国内でも21件以上の特許を取得している。

AIを悪用した攻撃は急増しており、アカウント奪取からランサムウェア配布までを24時間以内に行う組織や、AI活用で侵入成功率を220%向上させたグループも存在する。また、専門知識がなくても攻撃できる「RaaS(Ransomware as a Service)」が犯罪組織によって提供され、攻撃の裾野が広がっている。

主要15カ国の中で、日本は最も攻撃を受けている国である。背景には、①人を信じやすい文化、②デジタル化の遅れ、③脆弱性が既知の古いシステムの運用、④「身代金を払える国」という認識があると指摘された。

デジタルレジリエンスとデータ防御の考え方

こうした状況に対し、重要なのは「デジタルレジリエンス」の確保である。100%防御は不可能であり、攻撃を受けてもサービスを継続できる体制を整えることが鍵となる。そのためには「データ中心」で考える必要があり、まず社内データを棚卸しして、把握されていない「シャドーデータ」をなくすことが出発点となる。

最も根源的な対策として挙げられたのが「暗号化」である。ペンタセキュリティの「D’Amo KE」は、OSにエージェントを入れるだけでフォルダ単位の暗号化が可能となり、正規プロセス以外のアクセスを遮断できる。これにより、ランサムウェアによる勝手な暗号化を防ぎ、仮にデータが盗まれても内容は読み取れない。また、サーバー廃棄時のデータ流出リスクにも対応できる。

講演は、DX推進とサイバー攻撃の高度化が同時進行する今こそ、企業が「侵入前提」で備え、データを守る仕組みを整えることが不可欠だというメッセージで締めくくられた。