中小企業のDX化を考える:CSPA 中小企業ステップアップセミナー#37 開催報告書/動画公開

本セミナーでは、長年中小企業のIT化・デジタル化支援に携わってきた高島利尚氏が、日本の中小企業、特に「小規模事業者」がDXをどのように捉え、実践していくべきかについて、実務的な視点から詳しく解説しています。下記解説をご参照の上、ぜひ、本編のアーカイブ動画をご覧ください。

1. 中小企業のDXの現状と背景

現在、日本の中小企業におけるDXの進展は芳しくありません。2024年のデータでは、DXを実践できている企業はわずか3.2%に留まり、デジタル化が未着手のレベルにある企業が全体の約7割を占めています。

国は1990年代後半からIT化を推進してきましたが、多くの中小企業は「現状のままでも仕事が回っている」という意識が強く、デジタル化を自分事として捉えてきませんでした。しかし、昨今の物価高、賃金上昇、金利上昇といった「デフレからインフレへの構造変化」により、従来通りの経営(コストカット型経営)では生き残れない時代に突入しています。

2. なぜDXが進まないのか:ITベンダーと経営者の課題

DXが停滞している要因は、経営者とITベンダー双方にあります。

  • 経営者側の要因: 日々の現場仕事(今日の儲け)に追われるプレイングマネージャーが多く、中長期的な経営計画を立てる習慣がない。また、デジタル化の必要性は感じつつも、具体的にどうビジネスに直結するのかがイメージできていない。
  • ITベンダー側の要因: 中小企業の経営実態を理解せず、技術的な説明や自社商品の売り込みに終始している。中小企業の経営課題に対して「どうメリットがあるか」を能動的に提案する力が不足している。

3. 支援対象のセグメント化(A〜Dランク)

高島氏は、全ての中小企業を画一的に支援するのではなく、やる気や状況に応じて4つの層に分類し、適切なアプローチをとるべきだと提言しています。

  • Aランク: すでに戦略思考でDXに取り組み、アワードを受賞するようなモデル企業。自走できるため、要請があった時のみ支援すればよい。
  • Bランク: やる気があり、補助金活用や事業承継を機にDXを志す企業。支援機関との接点もあり、最も支援の成果が出やすい。
  • Cランク(本セミナーの重点): やる気はあるがやり方が分からず、具体的な一歩を踏み出せない小規模企業。支援機関に自ら行くことも少なく、ITベンダーも訪問しない層。
  • Dランク: 「今のままでいい」と変化を拒む層。支援の優先度は低い。

4. Cランク(小規模企業)への具体的支援プロセス

地域経済の活性化には、最も数が多いCランク層の底上げが不可欠です。高島氏は以下の手順による支援を推奨しています。

① 動機付けと信頼関係の構築

小規模企業の経営者は「思ったことしか実行しない」ため、まずは経営者の「本音の思い」や「なりたい姿」を引き出す対話が重要です。経営者の得意分野や強みに焦点を当て、「どうすればもっと良くなるか」を一緒に考える姿勢が求められます。

② スモールステップでの成功体験

最初から大規模なシステムを導入するのではなく、1〜2ヶ月で成果が見える小さなデジタル化から着手します。例えば、日々の活動実績をExcelで記録することから始め、「見える化」による変化を実感させることがDXへの第一歩となります。

③ 伴走支援とフォローアップ

導入後の操作ミスや些細な疑問で挫折するケースが多いため、リモート等を活用して「いつでも相談できる」環境を提供し、使いこなせるまで根気よく付き合うことが成功の鍵となります。

5. 「稼ぐ力」と生産性向上への転換

今後の経営において重要なキーワードは「儲かる(受動的)」ではなく「設ける(能動的)」という姿勢です。

  • 適正価格の実現: 原価計算に基づき、利益を確保できる価格交渉を行うこと。また、自社の強みをアピールし、代替不可能な価値を認めてもらう努力が必要です。
  • 生産性の本質: 単なるコストカットではなく、付加価値を向上させるためのデジタル活用であるべきです。「どのお客様が、どの仕事が自社に利益をもたらしているのか」をデータで把握し、素早い意思決定を行うことがDXの本質です。

6. 国の施策と将来展望

国(中小企業庁等)も、30年続いたコストカット型の縮み思考から、投資による成長思考への転換を促しています。「100億円企業」を目指すような成長意欲のある企業への重点支援や、大幅な補助金制度の再編が進んでいます。

しかし、高島氏は「光る企業」だけでなく、地域の雇用を支える小規模事業者がデジタル化によって「明日を見て考える経営」ができるようになることが、地方創生と日本経済の再生に繋がると結論づけています。

<登壇者プロフィール>

髙島 利尚 氏

中小企業の管理・経営後、中小企業診断士として独立。TMI主宰。主な資格:中小企業診断士、ITコーディネータ

中小企業のIT・デジタル化支援についてはITコーディネータ制度立ち上げ支援、IT経営百選、IT経営力大賞、攻めの経営百選、クラウド実践大賞の審査・運営に携わるなど1985前後から中小企業の情報化・IT化・DX化に関わってきている。

地域の小規模企業支援においては、2007年からの地域資源活用などによる「売れるモノづくり・サービス」支援、2016年からの神奈川県寒川町の主として小規模製造業支援に関わってきた。