松島著作集19巻「中小企業DX 向こう側にみえるもの」刊行
松島著作集第19巻が、コンテン堂よりebooksとして刊行されました。
ITebook:
https://contendo.jp/store/itebook/Product/Detail/Code/J0010365BK0157056002
コンテン堂:
https://contendo.jp/store/contendo/Product/Detail/Code/J0010365BK0157056002
税込385円です。

第19巻まで刊行を重ねることができたのは、皆様の継続的なご支援の賜物です。心より御礼申し上げます。
本巻では、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する根本的な課題に焦点を当てています。近年、DX推進にあたっては多くの障壁が指摘されていますが、特に重要なのは、現在の情報システムが開発者・設計者・運用者・ユーザーなど、関係者の手が届かない存在となっている点です。システムは修正困難なばかりか、触れることすら避けられる対象となりつつあり、人間側のガバナンスが失われている状況です。まさに、システムが“独り歩き”していると表現しても過言ではありません。
そもそも情報システムは、属人的で曖昧な業務処理を合理化・標準化し、紙ベースの業務から脱却することで効率化を図る目的で導入されました。しかし、環境の変化やユーザーの要望を取り入れる過程で内部構造が複雑化し、他企業とのネットワーク接続も進んだ結果、トランザクションデータの流れや最終的なサービス提供の安全性が見えづらくなっています。こうした複雑性の増大は、システムの透明性と制御可能性を著しく損なう要因となっています。
2018年に発表された第1回DXレポートでは、「2025年の崖」として、老朽化・複雑化した既存ITシステムが企業の競争力を著しく低下させるリスクが警告されました。しかし、2021年の第2回DXレポートでは、DXの定義が企業の価値創造やビジネスモデル改革へと変質し、当初の警告の本質が曖昧になってしまいました。その結果、初期に指摘された課題が十分に共有・認識されているとは言い難い状況が続いています。
今こそ、レガシーシステムからの脱却を図り、情報システムに対する人間側のガバナンスを回復するための抜本的な再構築が求められています。これこそが、真のDXの出発点であり、持続可能な社会的価値創造の基盤となるべきです。
本巻では、情報システムの概念がどのように変遷してきたかを歴史的に学びながら、これからのシステムのあるべき姿について提起しています。AIが不可避的にシステムに組み込まれていく時代において、人間側のガバナンスの在り方を再考することは、極めて重要な課題であると考えています。
目次:
1. 問題の所在
(1) 代表的中小企業経営者のDX実践からの知見
(2) デジタルインボイスの実装と金融機関の課題
(3) DXの本質への振り返り
2. システムとはなにか
(1) デカルトの思想とシステム設計論
(2) ニュートンのシステム概念
(3) ウィーナーのサイバネティクスにおけるシステム概念
(4) クーンの『科学革命の構造』におけるシステム論
(5) 現象学的視点に基づくシステム概念
(6) チェックランドのソフトシステムアプローチ
(7) ハラリの農耕システム論
(8) ガブリエルの意味の場としてのシステム概念
3. 諸課題の考察
(1) 全体最適の失敗
(2) 統合システムの失敗
(3) ERPの失敗
(4) EDIの失敗
4. 解決への展望
(1) 企業間業務連携の課題と新たなアプローチ
(2) 中小企業の視点によるシステム再構築と簡素化の必要性
(3) DXの本質:ゼロからの再構築