食品・日用品EC市場の現状と消費者行動の変化:CSPA 中小企業ステップアップセミナー#38 開催報告書/動画公開
本セミナーは、玉川大学の矢野尚幸准教授により、近年の食品・日用品EC市場の推移と、コロナ禍を経て定着した消費者行動の変化、そして今後の戦略的課題についてまとめられたものです。内容は次のとおりです。
第1章 食品・日用品ネットショッピングの位置づけ
第2章 市場の発展と利用拡大の実態
第3章 消費者行動の変化
第4章 ネットショッピング業態の課題
第5章 今後の展望と戦略的示唆
1. 市場の推移:コロナ後も続く成長
日本のネットショッピング市場は、コロナ禍を契機に急速に拡大しました。総務省の調査によれば、1世帯あたりの支出額はこの10年で3倍以上に伸び、2025年には月平均2万6千円を超えています。利用世帯率も2世帯に1世帯以上の割合(約57%)まで上昇しました。
特に注目すべきは「食品」の貢献度です。かつては家電などが中心でしたが、2025年の支出増において食品カテゴリーが最大の寄与を見せています。猛暑による外出控えなども、ネット利用を後押しする要因となりました。
2. 消費者行動の変化:スマホシフトと目的別の使い分け
注文デバイスはパソコンからスマートフォンへ完全にシフトし、特にアプリ経由の利用が定着しています。以前のようにサイト内をゆっくり探索する「バラエティ・シーキング(買い歩き)」的な行動は減少し、お気に入りの銘柄を繰り返し買う「定期補充型」の計画的な購買が主流となりました。
また、主要プラットフォームであるAmazonと楽天市場は、消費者によって明確に使い分けられています。
- Amazon: 洗剤などの日用品。プライム会員の送料メリットや、定期便の利便性、配送スピードを重視。
- 楽天市場: ギフト、地方の特産品、ふるさと納税。楽天経済圏(ポイント)の活用や、配送の丁寧さ、品質への信頼を重視。
3. 今後の課題:生鮮食品と配送コスト
市場が成熟する中で、依然として大きな壁となっているのが「生鮮食品」のEC化です。EC全体での食品比率はまだ5%未満にとどまっています。利用しない理由の多くは「鮮度への不安」や「自分の目で選びたい」という心理的抵抗です。しかし、一度利用したユーザーの満足度は高く、品質への信頼を得られれば継続利用につながる傾向があります。
もう一つの深刻な課題は、物流の「2024年問題」に端を発する配送コストの意識です。消費者は物流危機を知識としては理解しているものの、「実際に追加の送料を払うか」という点については依然として否定的であり、「送料無料になるまでまとめ買いする」という行動が根強く残っています。
4. 今後の展望と戦略
今後の成長の鍵は、生鮮食品の信頼獲得と、配送の付加価値化にあります。
- 生鮮の信頼: 鮮度保証を打ち出したイオンスタイルが展開している「グリーンビーンズ」のような特化型サービスの台頭が期待されます。
- クイックコマース: 10〜60分で届ける即時配送サービスは、全体では送料への抵抗が強いものの、20〜30代の若年層においては「時間を買う」ための追加費用を許容する層が一定数存在しており、新たな市場形成の可能性があります。
<登壇者プロフィール>
矢野尚幸 氏 玉川大学経営学部国際経営学科准教授

上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。
流通・マーケティング分野の研究を行う公益財団流通経済研究所在籍時に、店頭実験、海外流通視察等を担当。その後食品メーカー向けデータ活用コンサルティングに従事し、2022年より現職。
主な著書・論文には「マーケティングと広告の心理学」(朝倉書店・共著)、「アメリカ小売業におけるラストワンマイル効率化への取組」(流通情報)、「コロナ禍を経たシニア層のオンラインショッピングへの意識と行動の変化」(流通情報)など。