浜名湖フォーラム2024 開催報告
~日本のIT経営推進におけるダボス会議を目指して~
本年も9月6日(金)~8日(日)までの3日間、灼熱のアクトシティ浜松(浜松市)にて第14回浜名湖フォーラムを開催したので、その概要を報告する。
(浜名湖フォーラムそのものの沿革、開催概要、目指すもの等は、既報の以下リンクからご確認下さい。)
浜名湖フォーラム2024の実施概要と規模
まず開催規模はここ数年、参加者が40名強、発表テーマが20強という規模で推移している。浜名湖フォーラムはスタート以来、徒に規模を追うことはしてこなかったが、参加者が知遇を勧誘してくれる結果、毎年一定数の新規参加者がおり、更に志の高いメンバーが集まってくるという好循環が定着している。これを大きく超える規模になるとシリアルでの運営が難しく、発表をパラレルに分けて運営せざるを得なくなり、すべてのテーマを視聴することができなくなるので、事務局としては現在の規模が適切ではないかと考えている。また運営形態もコロナ禍の数年ですっかりノウハウを蓄積し、現地参加とZoomミーティングでのオンライン参加のハイブリッドのスタイルが定着し、成熟度を高めてきている。
浜名湖フォーラム2024のハイライト:初の分科会活動の成果を発信
多士済々の論客が参集する浜名湖フォーラムなので、「年に1回しか顔を合わせないのは、余りにも勿体ない、何か社会に影響を及ぼすような活動がしたい」という構想は、筆者のみならず複数のメンバーにおいても以前から温められていたようである。そこで筆者が2023年2月に分科会の設立を呼びかけ、メンバーとテーマの募集を行ったところ、20数名の希望者が集まり、内容の検討が始まった。活動の候補としては、「有識者の集団としての社会貢献活動」という観点から、以下のようなアイデアが寄せられた。
①講演会開催+ディスカッション
②企業や外部組織、学会等への情報発信
③共同研究、事例調査
④コンサルティング活動…収益を伴う活動も有りじゃないか?…等々
そして上記③の領域から、「中小企業におけるITを用いた組織変革の成功要因」というテーマを、デジタル化に成功した中小企業の事例研究を通じて掘り下げようとの方向となり、3名の有志による共同研究チームが立ち上がった。事務局としてはこの活動を契機に続々と新規の分科会が立ち上がり、新しいテーマに取り組んでくれることを期待しているが、取り急ぎ今回の取り組みの概要について以下に報告する。
研究の着眼点としては、従来の中小企業支援は直接の改善支援や成功事例の紹介に偏重しており、学術的な研究対象とされてこなかったため、変革途上のプロセスや成功要因の分析まではほとんどされていないことに注目した。また事例調査の対象企業については、福井県でITコーディネータとして活躍するメンバーから紹介を受けられる目途が立ったことから、2023年の10~12月に研究計画とWBS(Work Breakdown Structure:タスクの洗い出しと整理)の詳細化を行い、2024年2月に事例企業8社へのインタビューを実施した。更にそれらの結果に分析・検討を加えて論文化を行い、まず本年の浜名湖フォーラムで発表した。これらの成果は、今後も以下のような場面で発信していく予定である。
- 9/24 経営情報学会誌に査読論文として投稿
- 11/16~17 経営情報学会@西南学院大学のIT資産価値研究会セッションで発表
- 11/25 ふくいDXオープンラボにて公開セミナー開催(事例調査協力へのご恩返し?)
近年の浜名湖フォーラムでの発表テーマのトレンド
浜名湖フォーラムのテーマは当初から、「中小企業のIT経営に関わるものなら何でも可」で変わっていない。その領域の中でITベンダー、ユーザー企業、大学等の教員の絶妙な比率によって、情報システムの提供側、活用側、第三者的な研究者というそれぞれの立場からの発表が行われてきた。その中で近年のテーマとして急増しているのがChatGPTに代表される生成AIの技術トレンド、もう一つが企業変革の基盤となる人材育成のテーマである。
①生成AIの技術トレンド
ChatGPT、Copilot…といった生成AIに関する話題を聞かない日はない。ただし多くのビジネスパーソンは、まだそれらの技術が自身の企業や業務にどのようなインパクトをもたらすのかを等身大に理解できていない状況ではないかと考えられる。浜名湖フォーラムに参集するアンテナの高いメンバーはその遥か先を行っており、自らの業務に積極活用するのみならず社会に対しても、効果的な活用のあるべき方向性やそれを実現する上での心技体のポイントについて正確に情報を把握し、発信していた。筆者も発表を聞いてその内容に刺激を受けるとともに、浜名湖フォーラムのメンバーのレベルの高さを再認識した次第である。この傾向は今後も続くことと予想され、来年の発表が今から楽しみである。
②企業変革の基盤となる人材育成やモチベーション、ロイヤリティ
戦略を立案すること自体は、実際にそれを実行して成果につなげることよりも遥かに容易である。換言すればこれは戦略が「絵に描いた餅」に終わり易い、ということでもある。振り返ってみれば数十年前のBPR、SCM(サプライチェーンマネジメント)、および近年のDX、さらにそのルーツとも言えるe-ビジネスなどに共通するのは、情報システムを導入・適用する前段階の企業変革およびビジネスモデルの刷新の段階(筆者の言葉ではWhy/What工程)で頓挫していること、およびその結果として取り組みが単なるITツールの導入に(同How工程)堕してしまっていることではないかと認識している。
企業変革やビジネスモデル刷新のキーとなるのは、有能な人物が高い使命感に支えられてそれぞれの任務を完遂することであるが、現在の閉塞状況はその人材育成の基盤を毀損しており、個々の従業員のモチベーションを低下させる要因の枚挙に暇がない。そこにZ世代の早期離職問題やセクハラ・パワハラなどの心理的安全性欠如といった要因が複雑に絡み合い、近年の人材マネジメントの難易度は極めて高くなっている。本年の発表でも、これらの課題にどのように取り組み解決のメスを入れて行くかという方向の発表が多かったように感じられる。浜名湖フォーラムのディスカッションテーマ自体も、世相を反映して徐々に、かつ的確に進化していると感じる昨今である。
毎年参加して思うこと
繰り返しになるが、筆者は浜名湖フォーラムの特長の一つは参加メンバーのレベルの高さにあると実感している。「失われた30年」という言葉を引き合いに出すまでもなく、現在の日本には長期にわたる閉塞感が漂っていることは否定できない。政治・経済・文化のどの領域を取り上げても明るいニュースに乏しい昨今である。このような時代背景においてはともすれば意識も萎縮傾向に偏り、悲観的な発想が先行することになりがちであるが、筆者が毎年浜名湖フォーラムに参加して思うのはその反対の心情である。すなわちマクロで見れば決して明るいニュースは多くないかもしれないが、ここに集まっているメンバーはそれぞれの領域において、極めて明るく前向きに、使命感を持って己の役割を果たそうと真剣に生きている。単に発表の内容を聞いて新しい知識を得るのみならず、彼らの前向きな姿勢から筆者自身も大きな刺激を毎年受ける。翻って私の背中は彼らにどのように見えているのであろうか?若干忸怩たる想いもあるが、還暦を過ぎた昨今、高い志だけは持ち続けていたいものだと己に言い聞かせる日々である。 来年は15周年を迎える浜名湖フォーラムであるが、開催内容については大きな変更は今のところ考えていない。あの素晴らしい仲間たちと過ごす3日間が、私にとって最大のお土産である。来年の開催地はアクトシティ浜松が大規模修繕に入るため、岐阜県大垣市のソフトウェアジャパンに舞台を移し、8月29~31日で開催することが決まっている。恐らくその時期の大垣も灼熱であろうが、気温のみならず熱い議論を来年も展開したいものだと、今から楽しみである。
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営管理専攻(MBA)准教授
浜名湖フォーラム・事務局長 栗山 敏